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犬と猫の僧帽弁閉鎖不全症|犬で一番多い心臓の病気2024.08.19

僧帽弁閉鎖不全症(僧帽弁粘液腫瘍性とも呼びます)は、犬で一番多い後天性の心臓病で、特に小型犬で多く見られます。犬も猫も心臓病は無症状で進行するため、気づいた時にはかなり重症になっていることが少なくありません。

治療も進行を遅らせることが目的となるため、早期発見が何より重要です。

 

今回は犬や猫の僧帽弁閉鎖不全症について説明します。

 

■目次
1.僧帽弁閉鎖不全症とは?
2.僧帽弁閉鎖不全症になるとどうなるのか?
3.犬と猫の僧帽弁閉鎖不全症
4.僧帽弁閉鎖不全症の症状
5.僧帽弁閉鎖不全症の進行度合いと重症度
6.診断方法
7.治療方法
8.予防法やご家庭での注意点
9.まとめ

 

僧帽弁閉鎖不全症とは?】

心臓には右心房、右心室、左心房、左心室の4つの部屋があります。

血液は細胞に栄養や酸素を送り、二酸化炭素や老廃物を受け取る役割があります。血管を通じて全身を巡る血液を送り出すポンプの役割を果たしているのが心臓です。

 

全身を巡った血液は、大静脈→右心房→右心室→肺動脈→肺→肺静脈→左心房→左心室→大動脈の順に流れ、再び全身に送られます。

この流れが一方通行で行われるように、心臓の各部屋の境界には弁がついており、逆流を防いでいます

 

僧帽弁は左心房と左心室の間にある弁で、この弁がきちんと閉まらなくなる病気を、僧帽弁閉鎖不全症と呼びます。僧帽弁が正常に機能しないと血液が逆流し、心臓に負担がかかります。

 

【僧帽弁閉鎖不全症になるとどうなるのか?】

僧帽弁閉鎖不全症になると、左心房から送り出されるはずの血液が十分に送り出せず、血液が滞ってしまいます。その結果、左心房と左心室に通常より多くの血液が溜まり、内側から圧力がかかって心臓が徐々に大きくなります。

 

また、左心房に集まる血液は肺から戻ってきた酸素が豊富な血液ですが、この血液が全身にうまく送られないため、体全体が少しずつ酸欠状態になります。

さらに、肺の血管が高血圧状態になると肺水腫を引き起こし、酸素を血液中にうまく取り込めなくなります。心臓病の犬で水っぽい咳が出るのは、この肺水腫が原因です。

 

このような状態が進行すると、高血圧が全身に影響を及ぼし、腹水などさまざまな異常を引き起こします。

 

【犬と猫の僧帽弁閉鎖不全症】

犬では、キャバリア・キングス・チャールズ・スパニエルは遺伝的に100%僧帽弁閉鎖不全症を発症する好発犬種として知られています。

他にもチワワ、トイ・プードル、シー・ズー、マルチーズなどの小型犬によく見られます。

発症は中高齢に多く、一般的な心臓病として知られていますが、早ければ子犬の時期から症状が見られることもあります。メスよりもオスの方が発症率が高い傾向があります。

 

猫の心臓病といえば心筋症、特に肥大型心筋症が一般的です。僧帽弁閉鎖不全症も発生しますが、あまり多くはありません。

 

【僧帽弁閉鎖不全症の症状】

<初期の症状>

初期に見られる症状としては、元気がない、疲れやすい、散歩や運動をすぐにやめるなどがあります。一見すると老化現象に見えるため、すぐに病院に連れていかず、しばらく様子を見てしまうことが多いです

僧帽弁閉鎖不全症は初期には無症状で進行するため、目に見える症状が現れるころには病状がかなり進んでいることもあります。

 

<進行した症状>

進行すると、運動後に舌が青くなるチアノーゼが見られたり、寝ている時間が増えたり、突然失神することもあります。

また、肺水腫を起こすと、水っぽい咳(こもったような咳)や首を伸ばした苦しそうな呼吸、常に呼吸が荒くなるなどの症状が見られ、最終的には呼吸困難に陥り命に関わることもあります。

 

【僧帽弁閉鎖不全症の進行度合いと重症度】

僧帽弁閉鎖不全症の進行度合いは、米国獣医内科学会(ACVIM)の定義に基づいて以下のように分類されます。

 

<ステージA>

今は特に異常がなくても、将来的に発症するリスクが高い犬種。主に好発犬種のことで、子犬の時期からステージAに分類されます。

 

<ステージB1>

僧帽弁での血液の逆流が始まり、無症状ではあるものの聴診で心雑音が聞こえるようになります。

 

<ステージB2>

心拡大(心臓が大きくなること)が見られる段階で、疲れやすくなるなど、前述の初期症状が現れます

 

<ステージC>

肺水腫が発生し、チアノーゼや咳などが見られます。この段階では、肺水腫に対する治療に反応があります。

 

<ステージD>

肺水腫が治療に反応しない、末期状態です。

 

前述した初期症状はステージB2の段階から現れますが、年齢によるものと見過ごされ、心臓病を疑わない飼い主様も多くいらっしゃいます。そのため、ステージCになって初めて検査を受け、僧帽弁閉鎖不全症と診断されることも少なくありません。

 

病気の進行は一方通行で、治療をしても前のステージに戻ることはありません。そのため、外見上元気そうに見えても、定期的に心臓の検査を受けることで早期に発見し、早期に治療を始めることが重要です。

 

【診断方法】

僧帽弁閉鎖不全症の診断では、聴診、レントゲン検査、心臓超音波検査、血液検査などを行います。

 

聴診

血液の逆流が起きている箇所で聞こえる心雑音を確認します。

心雑音が聞こえる場合、心臓に異常があると考えられますが、まれに異常がなくても心雑音が出ることがあります。また、心雑音の程度は必ずしも重症度と一致しないため、追加の検査が必要です。

 

レントゲン検査

心臓の形や大きさ、肺水腫の有無などを確認します。

 

心臓超音波検査

心臓の筋肉や弁の動き、内径、血流の向き、逆流の有無などを確認します。

僧帽弁閉鎖不全症では、左心系で血液の逆流が見られるため、カラーエコー画像がモザイク模様になります。

 

その他の検査

血圧測定心電図検査を行うこともあります。

また、血液検査で全身の状態や治療薬による副作用の有無なども確認します。

 

【治療方法】

僧帽弁閉鎖不全症の治療の目的は進行を遅らせ、症状を緩和することです。

根治は難しいため生涯にわたって治療が必要で、前述したACVIMのステージ分類に基づき、投薬の内容や量を調節します。

 

<ステージAとB1>

この段階では内科治療は行わず、定期検査で経過を観察します。

 

<ステージB2>

強心薬の投与と食事療法が推奨され、病状に応じて降圧剤などを追加します。

 

<ステージC>

肺水腫を起こしているため、強心剤や降圧剤に加え、利尿薬の投与や酸素吸入が行われます。状態が悪い場合は入院治療が必要ですが、治療により肺水腫の状態が緩和されて安定すれば、自宅療養に戻ることができます。

ただし、帰宅後も自宅での細やかな状態の確認や、定期的な通院で病態を注意深く見守る必要があります。

また、ご自宅での酸素室の使用を提案する場合もあります。

 

<ステージD>

治療に反応しにくい肺水腫で非常に危険な状態です。状況に応じた治療が行われます。

 

<外科治療>

近年では、根本的な治療を目指す外科手術も行われるようになりました。心臓外科手術は特殊な器具や機械、経験のある執刀医が必要ですので、ご希望の場合は心臓外科手術が可能な病院をご紹介いたします。

 

【予防法やご家庭での注意点】

僧帽弁閉鎖不全症は無症状で進行し、ステージB2まで進行して初めて現れる初期症状も、老化と間違われて見過ごされることが多いです。

ステージCまで進むと肺水腫を起こし、呼吸困難になることもあるため、ステージCに到達する前のステージB2の段階で治療を始めることが重要です。

 

ステージB2の症状は、「疲れやすい」「ちょっと元気がない」といったわずかな変化ですが、この時点で僧帽弁閉鎖不全症が疑われる場合は、すでに肺水腫の一歩手前まで進行している状態なので、早めに検査を受けることが大切です。

 

僧帽弁閉鎖不全症の初期症状は分かりにくく、見過ごされがちです。そのため、好発犬種と暮らしている飼い主様はもちろん、どの犬種であっても、定期的に心臓の検査を受けることで早期発見・早期診断を心がけることをおすすめします。

 

【まとめ】

僧帽弁閉鎖不全症は中高齢の小型犬に多く見られる病気です。発見が遅れると予後にも影響しますが、初期症状が分かりにくいため、進行してから見つかることも少なくありません。早期発見のためにも定期的な健康診断をおすすめします。

 

また、少しの変化でもいつもと違う様子が見られたら、早めに来院してください。心臓病と診断されても、すぐに命を落とすわけではありません。早期に発見できれば、それだけ長く、体のストレスを減らしながら生活することができます。

 

ご心配な方や質問がある場合は、いつでもお問い合わせください。

 

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