愛犬や愛猫が目を細めていたり、まぶしそうにしていたり、涙が増えている様子はありませんか？
一見するとちょっとした不調のように見えるかもしれませんが、その背後に「ぶどう膜炎」という、放っておくと視力に影響を及ぼす可能性のある眼の病気が隠れていることがあります。

今回は、ぶどう膜炎とはどのような病気なのか、どんな症状に気をつければいいのか、そして早期発見のポイントや治療法について解説します。

■目次
1.ぶどう膜炎とは？
2.ぶどう膜炎の主な症状と早期発見のポイント
3.主な原因
4.診断方法と検査
5.治療法
6.まとめ

 

【ぶどう膜炎とは？】

ぶどう膜炎とは、目の中にある「ぶどう膜」という組織に炎症が起こる病気です。
ぶどう膜は、虹彩（こうさい）・毛様体（もうようたい）・脈絡膜（みゃくらくまく）という3つの部分から構成されており、眼球の中に栄養を届けたり眼圧を調整したりと、目の健康を支える大切な役割を担っています。

この部分に炎症が起きると、視力に影響が出るだけでなく、進行すると失明に至る可能性もあるため注意が必要です。

また、ぶどう膜炎は犬や猫の目の病気の中でも特に見逃されやすいとされています。
症状がはっきり現れないことが多く、「なんとなく目が赤い」「まぶしそうにしている」など、ちょっとした変化に見えることも少なくありません。

 

【ぶどう膜炎の主な症状と早期発見のポイント】

犬と猫に共通して見られる主な症状には、以下のようなものがあります。

・目の充血
・黒目（瞳孔）が白く濁る
・涙が多くなる、目やにが増える
・光をまぶしがる
・目を細めている、または片目を閉じたままにしている
・視線が合いにくくなる、物にぶつかるようになる

ぶどう膜炎が進行すると、眼圧の異常や網膜剥離などを引き起こすこともあり、最悪の場合は失明につながる恐れもあります。
そのため、「なんとなく目の様子がいつもと違う」と感じた段階で、できるだけ早く動物病院を受診することが大切です。

 

【主な原因】

ぶどう膜炎の原因は、非常にさまざまで複雑です。犬と猫で共通する原因もあれば、それぞれの動物に特徴的なものもあります。

＜犬に多く見られる原因＞
・外傷（目にゴミが入ったり、引っかかれたりしたことによる刺激）
・感染症（細菌やウイルスによるもの）
・自己免疫疾患（体の免疫が誤って自分自身の組織を攻撃してしまう状態）
・腫瘍（目の周囲や体内の腫瘍が関係する）
・全身性の疾患（糖尿病や高血圧などの影響で目に炎症が起きる）

 

＜猫に多く見られる原因＞
・猫白血病ウイルス（FeLV）や猫免疫不全ウイルス（FIV）
・猫伝染性腹膜炎（FIP）
・トキソプラズマなどの寄生虫感染
・慢性の歯周病など、口腔内の炎症からの波及
・外傷や目に異物が入ったことによる刺激
・腫瘍（眼球の腫瘍もしくは体内の腫瘍）

 

このように、ぶどう膜炎は目そのもののトラブルだけでなく、全身の病気が原因となっている場合もあるため注意が必要です。
実際、目の異常の背後に、免疫異常やウイルス感染などの重い病気が潜んでいることもあります。

 

【診断方法と検査】

ぶどう膜炎を正確に診断するためには、いくつかの専門的な眼科検査が必要になります。
まずは獣医師が目の見た目をチェックする視診から始まり、その後、必要に応じて以下のような検査を行います。

◆スリットランプ検査
専用の顕微鏡を使って、角膜（黒目の表面）や前眼房（角膜と虹彩の間にある部分）の状態を詳しく観察します。
炎症の有無や、その程度を確認するのに役立つ検査です。

 

◆眼圧測定
目の中の圧力（眼圧）を測定します。
ぶどう膜炎では眼圧が低下していることが多く、緑内障など他の病気と見分けるためにも大切な指標となります。

緑内障についてはこちらで解説しています

 

◆眼底検査（倒像鏡検）
目の奥にある網膜や視神経の状態を確認します。
炎症が進行していないか、視力に影響が出ていないかをチェックするために行います。

 

◆血液検査やウイルス検査
ぶどう膜炎は全身の病気が関係していることも多いため、感染症・免疫異常・腫瘍などの有無を調べるために血液検査を行います。
猫の場合はFIV（猫エイズ）やFeLV（猫白血病）の検査が重要になることもあります。

 

これらの検査結果を総合的に判断して、ぶどう膜炎の原因をできる限り特定し、それに合わせた治療を進めていきます。
特に、感染症や免疫疾患が疑われる場合には、追加の検査や外部の検査機関に検体を提出することもあります。

また、診断の精度を高めるために、飼い主様からの情報提供が非常に大切です。
来院の際には、できるだけ以下のような点を詳しくお伝えください。

・目の異常に気づいた時期と、それからの変化の様子
・目の状態（充血、まぶしそうにしている、目やにの量、痛がる仕草など）
・全身の様子（元気や食欲の変化など）
・これまでの病歴やワクチン接種の履歴
・猫の場合は、FIV・FeLV検査の実施歴や飼育環境（室内飼いか屋外飼いか）
・怪我や異物が入った可能性、他の動物との接触があったかどうか

ぶどう膜炎は原因が多岐にわたるため、飼い主様からのこうした情報が正しい診断と早期の治療に直結します。
気になる点がある場合は、どんな小さなことでも遠慮なくお話しください。

 

【治療法】

ぶどう膜炎の治療は、「炎症を抑えること」「痛みを和らげること」「原因となっている病気を治療すること」の3つが基本方針です。

治療では、症状の程度や原因に応じて、主に以下の方法が用いられます。

◆点眼薬
ステロイド剤・抗炎症薬・抗菌薬などを使用し、炎症や感染を抑える目的で処方されます。
患部に直接作用するため、症状の緩和や進行の抑制にとても効果的です。

 

◆内服薬
抗炎症薬・免疫抑制剤・抗生剤などが用いられます。
炎症が全身に広がっている場合や、原因が全身性の病気（感染症や自己免疫疾患など）である場合に使用されます。

 

◆原因疾患の治療
ぶどう膜炎の背景に、ウイルス感染・免疫異常・腫瘍などがある場合は、そちらの治療を並行して行う必要があります。

 

＜治療期間と予後について＞
治療には数週間から数か月かかることもあり、決して短期間で完治するとは限りません。
また、一度症状が治まっても再発するケースもあるため、継続的な経過観察がとても重要です。

早期に適切な治療を始めることで、視力を保てる可能性は大きく高まりますが、発見が遅れたり治療が中断されたりすると、視力障害や失明といった重い後遺症が残ってしまうこともあります。
そのため、目の異変に気づいたときにはできるだけ早く動物病院を受診し、正確な診断と継続的なケアを受けることが大切です。

 

【まとめ】

ぶどう膜炎は、一見すると「目が赤い」「少し違和感がある」程度に見えるかもしれませんが、その裏には深刻な眼の病気や全身の疾患が隠れていることがあります。

犬や猫は、痛みや不調をじっと我慢してしまうことが多いため、飼い主様が「いつもと違う」と感じたその気づきが、何より大切な早期発見のきっかけになります。

だからこそ、少しでも異変を感じたら、早めに動物病院へ相談することが大切です。
適切な診断と治療、そして日頃のケアによって、大切なご家族がこれからも健やかに過ごせる毎日を守っていきましょう。

 

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